ヴァンダルハーツ

VANDAL HEARTS

〜失われた古代文明〜


第1章 動乱の予感


第1節 山賊の谷

サステガリア大陸、イシュタリア共和国の郊外に広がる山間部。その山間の谷に商人姿の3人の男達がいた。この谷に噂される山賊のことなど意に介さないかのように、用心棒や馬などを連れない身軽な商隊である。
彼らは谷の中ほどにある狭い空き地の岩に腰掛け小休止をとっている様子だ。しかし、すこし頭の回る人間ならば、彼らの周囲の何かしら張り詰めた空気を感じ取り不自然な印象を持ったであろう。
商人のうちの一人が真ん中に腰掛けていた男に何か話し掛けている。どうやら話し掛けられた男の名はアッシュといい、この男達のリーダー的な存在らしい。
その言葉を合図にしてか、彼らの周囲の茂みがざわめきたつ。そして奇声とともに、いかにもといったいでたちの山賊達が彼らを囲み込んだ。
山賊達はその男達の持つ張り詰めた雰囲気に気がつかなかったらしい、中の弓を持った一人が、脅しの言葉を吐きながら不用意に真ん中の商人に近づいていった。
ドスッ。柔らかい地面をこん棒で叩いたような鈍い音とともに、その山賊の身体が沈んでゆく。自分の身に何が起きたかもわからない不思議な表情で男は地に伏した。地面にはどす黒い血溜りが広がる。
山賊たちが一斉に色めきたつ。ただ者ではない闘気を発する3人にやっと気づいたようだ。山賊たちの直中にあって何ら臆することなく、逆に威風堂々とした態度で羽織っていたマントを脱ぎ捨てる。
「イシュタリア警備兵団第16小隊『黒い疾風』アッシュ・ランバート!」

第2節 ドブル地区

山賊ズー・ガッハはアッシュらが2ヶ月前に捕まえたはずの盗賊だった。正当な刑期を終えているはずがない。交易路の途中にあった谷で山賊を張らせ、商人の富を強奪する。そのような利権のために役人が不正に釈放したことに間違いはなさそうだ。
このような下級役人の不正がまかり通るのも、政府がうまく機能していないことの現れである。アッシュらは現在の政府に疑問を持ちはじめるが、何もできない自分たちに苛立ちを感じるしかなかった。
とりあえず息抜きに向かった酒場でも、客の口からもれるのは不景気な話ばかり。そこへ息を切らして一人の男が駆け込んできた。
「暴動だ!」
慌てて現場に駆けつけるアッシュたち。そこは旧貴族の住む屋敷が立ち並ぶ一角だった。旧貴族は新政府が出来てからは、反政府分子とみなされ厳しい弾圧を受けている。その様子を写したような崩れかけた建物が立ち並んでいた。
そこにはすでに、治安維持部隊が到着していたが、行われていたのは暴徒の鎮圧ではなく一方的な殺戮だった。政府直属の機関である特別治安維持部隊の行動に何の制約権もないアッシュたちはただこの惨状を見ているしかなかった。
部隊を指揮するのはケイン。現国防省長官ヘルの息子にあたる。アッシュらを見つけたケインは勝ち誇った顔で、教会内部に立てこもる残党の逮捕を命令して撤収していく。目の前で行われた殺戮と、自分たちの経験した理不尽な法体制に怒りを感じながらも雨降るドブル地区に残されたアッシュたちは、暴徒の説得逮捕に教会に向かう。
その刹那、人気のなかった街路に闇から浮かび上がるようにして人ではない幾つもの影が現れた。
「くっ、召喚獣か! 術師がいる?!」

第3節 王宮跡

教会内に立てこもっていたのは旧貴族の指導的立場にいる人物達であった。彼らを説得し逮捕に応じさせたまさにその時、狙いすましたかのごとくケインが現れた。ケインらはすでに武装解除して従おうとしていた旧貴族たちを次々と惨殺してゆく。残った貴族の指導者は生かしたまま連れ去られた。またしても成すすべなくそれを見送るアッシュたち。
警備兵団本部に戻って事の次第を説明するアッシュらであったが、団長は冷静な判断をするようにと釘をさす。そこにはもう一人の男がいた。若手改革派の議員、ドルフである。彼は治安維持部隊と今事を起こすのは、ヘルに隙を与えることにつながるために控えた方がよいとアッシュらに忠告した。
そして、治安維持部隊との関係を悪化させないためにも、アッシュらにしばらく都を離れるようにと言い出した。しかし、これはあくまでも口実であって本当の目的は、現在行方不明になっている革命の英雄ベラスコ将軍を探して連れ戻して欲しいという密命だった。ベラスコにはヘルと組んで国をのっとる計画があるという噂が議会に流れているらしいのだ。英雄であったベラスコ将軍に、そんな気があるとはとても思えないのだが、本人が行方不明のままでは噂は先走りしてしまう。
将軍を信頼するアッシュらにとってみても気持ちのいいものでもない。ドルフはいまいち信用のおける男ではないが、ここはかれの進言どおりしばらく都を離れてベラスコ将軍探索に出かけることにした。

ベラスコ将軍が消息を絶ったのはシュメリアから東に離れたギルバレス島だ。アッシュたちはとりあえず陸路を東に進み港を目指す。
街道の途中には旧王国の宮殿跡が、その末路を語るかのようにその無残な姿をさらしていた。整備されていた水道橋が今も水を運び込もうとしているが、革命の際に反乱軍に破壊された個所からむなしく放水している。アッシュらが宮殿跡に着いたときにどこからともなく警告の声が上がった。それは直接頭の中に響いてきたように聞こえていた。この宮殿に近づくなさもなくば呪いが降りかかる。
王家の怨霊が語らせているのか?いや、有り得ることではない。建物の破壊はひどいものの宮殿内での流血はなかったはずだ。貴族たちは臆病だったのである。意を決して宮殿跡を横切ろうとするアッシュたちに、ふたたびあの声が響いた。

「呪われるがいい!」

第4節 ライン大橋

エリナの作り出したストーンゴーレムを撃破したアッシュ達。エリナはベラスコの娘と名乗った。父親にかかった嫌疑を晴らすために、将軍を探すアッシュ達に同行することを提案するエリナとその教育係のホルクス。父親を思う娘の情にアッシュは危険を承知で同行を認めた。
5人になった一行は、旅を再開する。そして深い谷の上にかかるライン大橋にたどり着いた。ライン大橋は木々の繊維を幾重にも寄り合わせた丈夫な綱と、かしの木の分厚い板によって作られた最大級の吊橋である。いかに巨大とはいえ吊橋であるため、多少の揺れがあり、その揺れを怖がるホルクスの様子で和んでいた一行の前にまたしても山賊が現れた。
と、突然アッシュ達が渡ってきた橋のたもとで大音響が響き渡った。山賊は一行を橋ごと爆砕するつもりだったらしい。かろうじて橋を渡り始めていた一行には幸いにも被害がなかったものの、橋自体には巨大なつめあとが残った。しかも、残った部分も徐々に川に落下していっている。橋が落ちきる前に渡り切れなければ川に落ちて死。渡りきるとしても眼前には山賊。一行にとることの出来る選択は、山賊を打ち破ることしか無かった。

第5節 死の砂丘

合流したリーンとともにアッシュ一行6人はついに港町ポーツに到着した。後は海を渡る船を調達し、沖に浮かぶギルバレス島に向かうだけである。ところが、ポーツには以前満ちていた活気が見られなくなっているという。その理由が気になった一行は情報収集のために酒場に向かった
酒場にいる男達に話を聞くと、原因は海賊にあるらしい。陸に山賊が横行していることを考えれば納得のいく話ではあった。結局ほとんどの船は海賊に襲われ破壊しているか、海賊を恐れて港に近づかないかという状態であり、ポーツには今殆ど船はないという。船はあっても、操船技術のない一行では動かすことが出来ないので船乗りも雇わなくてはならない。この辺りの船乗りは海賊を恐れて絶対に船を出したがらないという。
途方にくれて酒場を後にしようとする一行にマスターが情報を教えてくれた。町に以前仲間を海賊に襲われて亡くした船長が酒におぼれた毎日を送っているという。彼の船は確か港にあるから頼んでみる価値はあるらしい。アッシュはすぐにこのラドーという船乗りの家に向かうことにした。
彼の心の傷は大きく、アッシュらの必死の依頼にも耳を傾けてはくれない。挙げ句の果てに町の郊外の砂丘に住み着いたモンスターを退治してくれたら話を聞いてやってもいいと言い出した。町の人間の話からすると巨大なモンスターで相当にやっかいであるという。アッシュは引き受けることにした、ラドーに少しでも心を開いてもらうために。
砂丘に足を踏み入れても一向に怪物は現れなかった。辺りは見渡す限りの砂地である。ところどころに生えたサボテンが、逆に荒涼としたイメージを強くしていた。姿の見えない怪物にいらいらが頂点に達した頃、まるで大雨がたたきつけるような轟音と共に、目の前の砂丘が身長の5倍以上の高さまで持ち上がっていった。その小山の回りからは砂を巻き上げながら人の胴ほどあるカニの鋏の様なものが地中から姿を表していた。どうやらこれは怪物の腕もしくは触手にあたるらしい。
そしてついに隆起した小山の頂きに、砂嵐に囲まれた毒々しいまでに赤い、甲虫の頭だけを拡大したような巨大な怪物の上半身が確認できた。

「腕には気を取られるな、本体を狙え。麻痺にも気をつけろ。くるぞ!」

第6節 ガダル海

怪物デスアントを打ち倒した一行は、報告を持ってポーツに戻った。ラドーの家に行き、再び船を出すことを依頼する。しかし、ラドーは心の傷と格闘しているようで、もう一晩待ってくれと言った。ホセは約束が違うと言い怒っているが、アッシュには、ラドーの心情が解るのか、一晩考えさせてあげようということになった。
一行は街の人達にも怪物の驚異が消え去ったことを報告することにした。ラドーのことを教えてくれた酒場に行くと、すでに噂で広まっていたようだ。皆が歓声で迎えてくれた。特にカウンターで座っていた女性は、我が家に伝わるお守りだからといって「キーオブノヴァ」というものを渡してくれた。何に役に立つかは分からないものの、なにか心強い。
そして、翌朝ラドーの家の扉をたたくと、昨晩とは打って変わった威勢のいい声が返ってきた。酒に酔っての大声ではなく、心の闇を払拭したような晴れやかな声だった。きっと一晩、無き仲間達、家族達と話をしたのだろう。彼らもラドーの再起を願っていたのかもしれない。
ついに、船を得ることが出来た一行は、ラドーの操船のもとギルバレス島につながる海原へとこぎ出して行く。できることなら海賊と出会わないであってほしいと願いながら。
しかし、出航してまもなく、その願いは打ち消された。海賊には似合わない派手な赤い服をまとった男達ののる帆船が急速に距離を縮めてきたのである。残念なことにこちらの船よりも圧倒的に足が速い。そして数分の後には2隻の船は舳先を並べるように並走ていた。海賊たちはこちらの船に渡るための足場を用意し始めている。
海賊の首領レッドラムを目にしたとたんラドーの顔つきがこわばった。しかし以前の様な世を捨てた人間の顔ではない。そこに浮かぶのはかけがえのない仲間と家族を奪い去ったレッドラムへの復讐心か、はたまたそれを阻止できなかった自分への怒りだったのか。剣を持つ手が白く浮くほど力を込めて握っているのがアッシュからも見て取れた。そして、ついに海賊船とラドーの船の間に板が渡された。
「あいつらを救えなかった情けない自分と違うんだっ。もう迷いはしない!」

特別節 トロアの試練1

ポーツの酒場で女性から受け取ったお守り「キーオブノヴァ」。アッシュはこれを持って転職道場に向かった。古の伝承によれば、トロアの力を得るためには、「トロアの6つの試練」なるものを受ける必要があるという。この試練に導くのはやはり世界に散らばる失われた6つの聖なる鍵。この「キーオブノヴァ」が聖なる鍵の一つに違いない。アッシュらは、最初の「トロアの試練」を受ける。



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