ヴァンダルハーツ

VANDAL HEARTS

〜失われた古代文明〜


第5章 遺産


第1節 ワルト湾

戒めから解放されたリーンは、感謝の言葉よりも疑問を先に口にした。なぜ裏切者の私を助けたのかと。キースは絶対多数の安寧のために1人の不幸を容認してはヘルと同じになってしまうと、リーンを納得させる。
リーンは貧乏貴族の出身だった。革命前はそれでも温かい両親に支えられて幸せだったという。ところが、革命の後始まった貴族狩りで両親、兄弟、家までも失ったのだ。ドルメンの話ではこのような貴族狩りの犠牲になったのは1000人を下らないらしい。新政府からはこのような数字は一切公表されていなかった。
イシュタリア共和国の繁栄はこのような血塗られた歴史を踏み台に築き上げられたものだったのだ。そしてまたヘルの手によって悲劇が繰り返されようとしている。魔石と王家の指輪を手に入れ「裁定の炎」を復活させたヘルを妨げる者はなにもなくなったからである。
その時サムデラが妙なことを言い出した。王家の指輪には古代ブラフ文字の暗号でトルネー山脈中の一点の座標が刻まれていたというのだ。トルネー山脈は遥か北方にある神々の住み処と呼ばれている前人未到の大山脈である。
具体的にヘルの陰謀を止める手段を失ってしまったアッシュには、不確定な情報ながらもすがるほかなかった。アッシュらはラドーの船を使い海路を北上しトルネー山脈に向かった。
そのころ帝国の首都では、ヘルとドルフが各々の思わくを秘めて裁定の炎を、見つめていた。ヘルは人類の退廃と衰亡への歩みを止めるためには絶対的な力が必要なのだという持論をドルフに語る。
その話を聞いていたドルフが、急に笑い出した。人類が衰退への道をひた走っているのなら邪魔をする必要はないというのだ。そして、おもむろに剣を抜きドアの前に警備に立っていた帝国近衛兵を一刀のもとに切り捨てた。そして、ドルフの突然の変貌に混乱しているヘルも悲鳴を上げる暇もなく、ドルフの凶刃の前に倒れた。
物音を聞きつけ部屋に駆け込んできた兵士に、テロによってヘルが倒れたと嘘の報告を行い、一人ほくそ笑むのであった。
一方アッシュ一行は、トルネー山脈のふもとの港に接岸していた。しかし、またしても出迎えたのはモンスターの群れだった。
「どういうことなんだ、これは」

第2節 トルネー山脈

接岸ポイントであったワルト湾で謎の攻撃を受けた一行は、何とか窮地を脱して開拓村ソルポーに到着した。ここはトルネー山脈のふもとにある唯一の村となる。
一行は明日の朝の出発を決め、早々に眠りに就いた。深夜、エリナとサリアの部屋でまさに絹を引き裂くような悲鳴が上がった。声を発したのはエリナだった。眠っていたにも関わらず、まるで今まさに自分が殺される瞬間だったというような表情で掛布団をはね上げて半身を起こしている。顔は青ざめ肩は大きく速く上下を繰り返していた。
悲鳴で起こされたサリアが心配そうに声をかけた。エリナは悪夢を見ていたという。大きな光の裂け目が自分を飲み込んでしまうという、小さい頃から繰り返し見る夢だ。夢の話と聞いてとりあえず安心したサリアは、明日のためにももう一眠りしておくことを提案するのだった。
翌朝、トルネー山脈に出発した一行は、一面純白の雪原にかかる橋の袂までやってきていた。ここでサムデラから目的地についての推測が語られた。件の座標には失われし民の末裔すなわち古代文明人の生き残りが住んでいるのではないかという。
その話を聞いていた時、ゲニウスが警戒の声を上げた。パーティーの後ろに既に見慣れた紅の甲冑の姿があった。ケインだ。しかも前方の丘の上にも、クリムゾンリーダーカーツの姿が。一行は完全に挟撃の体制にはめられていたのだ。
ところが、ケインの元に別のクリムゾンリーダーが伝令にやってきたことから事態に変化が現れた。ヘル・シュバイツ死去。その報が届けられたのだった。父親の凶報にケインは半信半疑だったが、とにかく一度首都に戻り真偽を確かめるべく慌ただしくこの場を去っていった。
ケインがいなくなったとはいえ、挟撃の体制にあることには違いがなく、しかもケインが連れていた兵はクリムゾンの中でも優秀な兵士ばかりだ。予断を許されない状況にアッシュの声にも緊張が感じとられる。
「個別撃破を狙え。孤立する者を出すなよ!」

第3節 デスク平地

皇帝が暗殺されたという報はアッシュ達にも衝撃を与えた。リーンはそれをドルフの仕業だと断言する。ヘルはただの権力の虜なだけだったが、ドルフは人類の滅亡、世界の破滅を願っている男だというのだ。
帝国の覇権をドルフが握るのはあまりにも危険すぎる。アッシュ達もぐずぐずしてはいられなくなった。
雪原を指輪の示す座標に向かって進んでいた一行は、周りの光景が徐々に変化していることに気づいた。周りから雪や氷が消え緑の広葉樹が見え始めたのだ。どう考えてもこの緯度でこの標高の場所に生えている種類の樹ではなかった。
肌に感じていた差すような冷たさも姿を消し、今や温かいと感じるほどになっていた。そのような変化をいぶかしんでいる間に、指輪に示された場所にたどり着いた。そこにはひっそりと1つの村がたたずんでいた。人は確かにいるのだが、活気という物がなかった。
アッシュはエリナの様子がおかしいことに気づいた。エリナはこの村の光景に見覚えがあるような気がするという。はっきりしないまま一行はとりあえず村を見て回ることにした。立ち寄った酒場ではこの村の様子を聞くことが出来たが、古代文明など関係ないという。
酒場を出たとたん、再びエリナの顔が蒼白になる。この村がもうすぐ火の海になるという叫びをあげた後、アッシュの腕の中に崩れ落ちた。気絶してしまったらしい。おたおたしていたアッシュ達に村を歩いていた老人が声をかけてきた。具合が悪いのなら家に来いと言ってくれた。
老人はこの村の村長であるパドウィンと名乗った。エリナは旅の疲れが出たのであろうということになった。アッシュはこの村を訪れた理由を村長に話した。しかし村長の口から漏れたのも先ほどのはなしと変わらず、古代文明とは関係ないという言葉だった。
落胆する一行の前に一人の村人が駆け込んできた。薬草を取りに行った連中がモンスターに襲われているというのだ。その中には村長の孫娘リィナも含まれているという。アッシュは救出に向かう事にした。
デスク平地に到着した一行はモンスターに囲まれている二人の子供たちを見つけた。その中の一人の女の子が呪文を唱えると、彼女らの周りに聖なる結界が張られたようだ。サムデラがその様子を見て驚きの声をあげる。彼女の張った結界はエレメンタルシールドと呼ばれる古代の高等魔法らしいのだ。なぜあんなに若い娘がそんな高等魔法を使えるのかという疑問がよぎるが・・・
「結界がいつまで保つか解らない。救出を急ぐぞ。」

第4節 灼熱の洞窟

リィナの使った魔法は確かに一級魔導師のみが知る古の秘術だった。しかも地上に石で描かれている絵は、トロアの方舟にあった絵と同様のものだった。村長は何か隠しているに違いない。
村に二人を連れ帰ったアッシュらは村長に説明を求める。その村長の胸元にも同様の意匠のペンダントが揺れていた。最初はとぼけていた村長も、サムデラにそのことを指摘され、ぽつぽつと語り始めた。
やはりこの村は古代ブラフ帝国の末裔の村だという。ブラフの民と言えば、「裁定の炎」を作り出した人々だ。アッシュは現在の世界が迎えている危機的状況を説明し協力を求めるが、村長は首を縦に振らない。一度起こした過ちを2度と繰り返さないためにも力を捨てたのだと。
アッシュはなおも説得を続ける。なぜ自ら作り出したものについて責任を取らないのか?逃げているだけではないのか?村長はその言葉に揺れた。ならばアッシュ達の決意の強さを見せて欲しいという。村の西にある「灼熱の洞窟」に赴き、火竜の牙を手に入れてこいというのだ。
ここまできて引き下がることが出来ない一行は灼熱の洞窟に向かうことになった。リィナの案内で洞窟までやってきた一行は、名前の通り溶岩がそこかしこに顔を出す蒸せるような熱さの中、奥の岩棚に竜の姿を認めた。
「恐れるな、絶対に牙を持ち帰るぞ。」

第5節 辺境の村

灼熱の洞窟から村に戻ると、最悪の状況が一行を待っていた。クリムゾンリーダー・サビーニの率いる一軍が村を焼き払っていたのだ。村人たちは一人残らず殺されているようで、無事な姿をとどめている建物は皆無だった。
くすぶり続けている家々の間に、村長の姿が見えた。まだ無事なようだが、周りをクリムゾン兵に囲まれている。サビーニがアッシュの行方を尋ねているが、村長は知らないと叫ぶ。アッシュらが駆けつけようとしたまさにその時、兵の一人の剣が村長を襲った。
「リィナ、下がっているんだ。必ず助け出す!」

第6節 オロイ湖

村長は大量の出血をしていて手の施しようがなかったが、奇跡的に意識を保っていた。そして、約束通り力を貸してくれるという。村長は、オロイ湖にある神殿に眠る破滅の剣「ヴァンダルハーツ」を蘇らせよと、リィナに命じた。
「ヴァンダルハーツ」は「裁定の炎」に抗える唯一の力であると同時に、使い方を誤ればその名の通り世界を破滅に導くこともある。どちらも使用する人間の心を反映してしまうのだ。アッシュは心に重圧を感じた。果たして自分は「ヴァンダルハーツ」を正しく使うことが出来るのだろうか?
リィナへの一言が村長の遺言になった。長年自分の心を偽って逃げ続けていた生活から解放されたためか、見知らぬ敵に惨殺されたとはとても思えぬ安らかな顔をしていた。
翌朝、一行はオロイ湖に到着した。しかし、どこにも神殿など見あたらない。リィナは特殊な文様の彫られた石版の上に立ち、複雑な呪文を唱え始めた。すると湖の中から鋭い尖塔をいくつも持った白亜の神殿が、膨大な量の水泡とともに浮かび上がってきた。
そして、その神殿が揺らめいたかと思うと、相当の重さがあると思われる岩の塊が現れた。やがてその岩の塊の輪郭が人型を取るようになり、最終的にはエリナの創ったゴーレムに近い形となった。しかし、ゴーレムのような正気のない岩の塊とは違い、明らかに強い意思がその1つしか無い目から感じられる。
やがて、一行が見守る中その生ける石像のうちの1体が静かに語り始めた。妙に機械的でざらついてはいたが、意味は明瞭に取ることが出来た。「ヴァンダルハーツ」を手に入れるための試練を受けろというのだ。
神殿に入るためにはどうしてもリィナの力が必要だ。危険な戦闘に子供を巻き込むのは感心しないが、そうも言っていられない状況になっている。
「リィナを守りつつ進路を確保しろ、神殿の入口まで行ければ消えるはずだ。」

特別節 トロアの試練5

灼熱の洞窟の溶岩の中から、発見した「キーオブロゴス」。聖なる鍵を持って、一行はソルポーに一度戻ることにした。
転職道場から試練場に向かうと、そこはスパイラル状になった巨大な岩山だった。しかもそこには20体を越すユニットがひしめき合っていた。
「時間はかかるが登らなければならない。上方からの攻撃に注意しろ!」



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